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上霜考二/Koji Ueshimo
取材記事③ 頑張っていれば、どこかで誰かが見ていてくれる。

上霜さんが参加した映画「洋菓子店コアンドル」の前半、蒼井優さん演じるヒロインが店のオーナーパティシエールから差し出された1個のケーキから気づきを得るシーンがある。キャラメルグラサージュが覆うシンプルな見た目と対照的に、中はノワゼットクリームとミルクチョコレートのムース、マーマレードをバランス良く収め、アーモンドの香ばしさと食感を加えた一品。上霜さんオリジナル「ルナール」だ。その緻密な構造と上品な形が、セリフ無しのシーンで「東京の名店の洗練されたケーキ」を雄弁に表現していた。その他にも、田舎から出てきたばかりのヒロインが得意気に作ってみせる野暮ったいケーキが、だんだん技術とセンスを身に付けるにつれ変化する様子、優れた先輩パティシエたちのスペシャリテ、クライマックスの鍵となる逸品まで上霜さんのケーキがストーリーの核となり、観る人たちに確かな印象を与えた。

映画の封切が2011年2月11日。たちまち上霜さんのケーキと一軒家パティスリーは評判を呼んだが、わずか1ヶ月後に、あの東日本大震災が発生。日本中が静まり返ってしまった。

「でも『あの映画を観てケーキ屋になったんです』と言う人もいて。あとね、『コワンヴェール』でずっと修行していた女の子が今フランスで働いているんですけど、イタリア人と結婚して、話しているうちに彼も『コアンドル』を観ていたことがわかったんですって。イタリア人も観て憶えていたなんてスゴイよなぁ。ああいう体験が出来たということが僕にとって嬉しかったですね。面白かったです。」


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