「いや、あの… おいしくなかったんです(笑)」
志賀さんにとって「パン」といえば給食のコッペパン。おいしくなかったパンの悪い印象が付いてしまっていたのだ。
「ランドセルの中は食べ残した給食のコッペパンでいっぱいでした。食べたことにしないと遊びに行けないので、こっそりと先生の目を盗んでね。若い皆さんは脱脂粉乳とか全然知らないでしょうけど、コッペパンと脱脂粉乳。あれでやられましたね。マーガリンも苦手で。苦痛でしたねぇ(笑)」
大学受験を機に上京し、近所にあったパン屋さんで初めてバゲットに出会った。
「ごく普通の〝町のパン屋さん〟だったんですけど。見たこともないパンでした。田舎ではコッペパンとあんぱんしかありませんでしたから、それまで自分のイメージにあったパンとは『違う』と感じましたね。他のパンはなんとなく想像がつきましたが、バゲットは形からして見たことなかった。これは食べてみよう、と。自分自身の職業について考えた時、そのバゲットの味を忘れられなくて。『あ、あれを仕事にしてもいいかな』と思いました。
農家の息子なので、ものを作ることは出来るだろう、と単純なところです」