日ごろ、生家のまんじゅうや大福に親しみ、ケーキといえばバタークリーム仕立てのものしか口にしたことがなかった辻口少年が、そこで初めて、生クリームをたっぷりまとったいちごのショートケーキを体験する。
「口の中で、スッと溶けたんですね。神々の食べものといってもおかしくない……というのは大人になってつくった言葉ですが(笑)。
世の中にはこんなにも美味しいものが存在するのか、うちの和菓子の域を越えている、と衝撃を受けました」
この出会いは、洋菓子の道を志す原点となった。
パティシエを目指し高校卒業後に上京してほどなく、生家の和菓子店の倒産という苦難に見舞われ帰郷するも、
「ショートケーキへの思い、人を感動させるケーキをつくりたいんだと思っていた自分は、どこへ行っちゃったんだ」と自問自答を繰り返したという。
結果として選んだのは、まさに身一つでの再上京、パティシエへの再チャレンジの道だった。