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藤川浩史
取材記事① 上質で、新鮮であること。"オンリー・ワン"であること。
『ラ スプランドゥール』のケーキは常時二十数種。あれこれ迷いながら選ぶ楽しさと共に出来たての味わいも楽しんで欲しいから、ショーケースに並べるのは一種類につき10個程度が基本だ。この他、ドゥミ・セックやショコラ、コンフィチュールなど、どれもオーナーシェフの藤川浩史さんが一品一品を吟味したスイーツを揃える。

食材の段階でも吟味する。
例えば、バニラシュガー。通常はグラニュー糖を入れた容器にバニラビーンズのサヤを1~2本挿しておくことで香りを移す。一方、藤川さんはサヤそのものを細かく砕いて混ぜた自家製バニラシュガーを使っている。
サヤを煮た際の牛乳などを洗い落とし、オーブンの余熱で乾燥させる。ある程度まとまった数になったらフードプロセッサーで粉砕するが「食べた時、口に残らない程度の細かい粉」しか使わないため採れる量はほんのわずかだ。こうした使い方自体は珍しくないらしいが、手間がかかるので実行している人は多くなさそうだ。
「バニラは高価で、たくさん使いますから出来るだけ活用したくて。油で揚げてみたり、いろいろやってみましたね(笑)」
その労を充分に補って、このバニラシュガーは存在感を発揮する。

「シェフという立場になった時から、"オンリー・ワン"ぐらいのオリジナルじゃなければきっと、さまざまなお店がある中で勝負にならないだろうなっていうのが気持ちの中にあったんです。教科書を見たりして伝統菓子を作ればどんどん種類は増やせると思うんですけど、それでは勝負にならないな、と。必ずオリジナルで作ったものか、もしくは本当に「良かった」と思うものを自分自身でアレンジしたもの、納得出来るものを出して行こう。そんな考えでやっています」

穏やかな笑顔からは少し意外さを感じるほど、強い"芯"を見せるケーキづくりのコンセプト。だからといって突飛な飾りや奇抜な組み合わせで驚かせるものとは違う。季節の食材と向き合って、1個のケーキにどれだけの充実感を込めるかが考え抜かれた結晶。
チョコレートを主役にするならチョコレートならではのなめらかな舌触りと豊潤さを重視。そして最後まで飽きずに食べられるよう食感に変化をつける。また、ナッツが主役なら快い歯応えの後から来る香ばしさ。さらにドライフルーツを合わせることで香りと酸味のアクセントをつけつつ、さりげなく秋の豊穣に想いをはせる造りに仕上げる。



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