「キュイジニエ(料理人)としてフランス校を出た頃、まだ僕には洋菓子といえば女の子や子供が好みそうなメルヘンチックでフワフワした軽いものというイメージしかありませんでした。でも河田さんの作るフランス菓子は僕のイメージ、いや、日本にある洋菓子のイメージとはまったく違っていた。何より『フランス菓子はフランス料理の流れの中にあるものなのだから、関わるのならお菓子単独でなく料理を知らなければならないし、フランスの食文化全般はもちろん、歴史や風土、人々の風習、宗教観などを知っておかなければならない』という考え方を知りました。だからこそ『料理の道を行こうとしていたのに、お菓子屋で働くの?』と疑問を抱いていた僕も納得してスタートを切ることが出来たんです。自分が何を作るのか、そのために必要な技術や知識をどうするかが見えるようになって。『オーボンヴュータン』は今もなお有名店ですけれど、ブランドとしてではなく河田さんのもとで働いたということが僕の経歴だと思っています。」
永井さんはオープニングスタッフとして河田シェフの間近で、その影響を受けながら過ごし、2年経つ頃にはパティシエとしてフランスへ行きたいという気持ちを抑え切れなくなっていた。
「早く行きたい、行かなくちゃ何も始まらないという感じでした。河田さんからは『まだ学校を出て3年足らずなのだから、もっと実力をつけてから行っても遅くないよ。』と言われましたけどね。」