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Interview vol.1
次世代のパティシエとしての心構え

ここ数年、スコーンやパウンドケーキ、クッキー、タルトなど、オーブンで焼きっぱなしのお菓子=ベイクが人気だ。専門店も続々登場し、ベイクはおしゃれなスイーツとしてひとつのジャンルを確立。

東急世田谷線・松陰神社前にある「MERCI BAKE(メルシーベイク)」は、全国区の人気を誇るベイクショップのひとつで、そのおいしさが口コミで広がると共に、センスのよいお菓子やパッケージのルックス、店構えなどがInstagramを通じて話題を呼んでいる。

田代シェフ:

「松陰神社前は今でこそメディアに取り上げられるようになりましたが、僕が4年前(2014年)にここに来たときは真逆で、街が人を探していた状態でした」

そう話すのは、MERCI BAKEのオーナーシェフの田代翔太さん。お店を構える松陰神社前エリアは、昔ながらの古き良き街並みが広がり、新しいショップやカフェが続々登場するなど、ここ数年で脚光を浴びている注目スポット。MERCI BAKEはこのエリアの新店の中ではいち早くオープンした先駆者で、レトロおしゃれな街並みを象徴する存在だ。

機能美に優れたキッチンツールなどがインテリアのように飾られた店内は、広さはそれほどないもののイートインスペースを設置。ショーケースにはキャロットケーキやタルト、スコーン、パウンドケーキのほか、クッキーやプリンなどを小瓶に入れた名物のジャースイーツなどが並べられている。

田代シェフ:

「オープン当初はおじいちゃんおばあちゃんのお店ばかりで、ここも以前は和菓子屋でした。この界隈はもともと雰囲気が良くて、古くから残っているお店はいい店ばかり。独立前に働いていた代々木八幡近くのエリアも考えたのですが、そこは勢いのある街で自分がやりたいスピードとは違う気がして、もう少しだけゆったりとしたところがいいなと。だからこの場所を紹介されたのには、きっと縁があったのですね」

田代シェフの生み出すお菓子は、一見素朴ながら深くてハッとする味わい。今回教わった「キャロットケーキ」も、伝統的なイギリスのレシピに独自のアレンジを加えていて、ただ焼いただけのほっこりベイクとは一線を画す。

田代シェフ:

「伝統的なフランス菓子を学んできましたが、街のケーキ屋さんとしてやっていきたくて、オープン当初からこのキャロットケーキを作っています。イギリスやアメリカのキャロットケーキとは違っていて、レーズン、ココナッツ、くるみは入れていません」


にんじんは質の良いものを農家から直接買い付けて、2品種を使い分け。スパイスは使う直前にホールのものを挽いて香りを立たせている。驚くべきは、レシピのシンプルさ。材料は多くなく手に入りやすいものばかりで、分量の数字もキリがよくて、誰にでも作りやすい構成だ。

田代シェフ:

「品質とおいしさを追求していったら、レシピがどんどんそぎ落とされて、これでいいのかと思うくらいシンプルになってきました。手を抜いているわけではないんですよ(笑)。誰が作っても失敗しないようになるべくシンプルなレシピにしていて、材料を使いきることも重視しています。たとえば、生クリームは1本単位にして、中途半端に残さないようにしている。質のいい材料を使うことも大切ですが、それと同じくらい鮮度が大事。アーモンドパウダーは開けた瞬間に劣化していきますが、開封したらすぐに使うのが一番いい状態なんです」


考え抜いたシンプルさは、見た目も同じ。何気なくトッピングしているように見えるバタークリームも、実はおいしそうに見えるように工夫されたデコレーション。洗練されて見えるか手抜きに見えるか、そのさじ加減が難しいと田代シェフは笑顔で話す。

田代シェフ:

「お菓子屋をやっているうえで、味がちゃんとしているのはもちろん、お菓子の形や大きさなどの見た目、お店のロケーション、雰囲気もとても大事だと思っています。食べるお菓子と空気感などがすべてがピタッとはまったときに、おいしいと感じてもらえるんじゃないかなって」

田代シェフ自身が好きなのは、自らが学んできた伝統的なフランス菓子。日本における本格フランス菓子の名店の一つとして知られる、東京・世田谷区尾山台の「オーボンヴュータン」のお菓子が今も昔も変わらず一番好きで、最もよく食べているという。

田代シェフ:

「日本とフランスでお菓子を学んできて、今も作るお菓子のベースは本格的なフランス菓子。違うように見えるかもしれませんが、表現の形としてそうしているだけなんです。(オーボンヴュータンの)河田シェフのような時代の方たちが、日本に本物のフランス菓子を持ち込んでくれたおかげで、僕がパティシエになりたいと思ったときにはすでにフランス菓子が身近にありました。だから僕たちがそれをやる意味がないとはいいませんが、素晴らしいお店はたくさんありますし、上の世代の方たちが築いてくれた土台があるうえで、どうすればもっとお菓子を食べてもらえるかを考えたいと思っています。

今風なことや新しいことがしたいわけではなく、河田シェフのようなお菓子を作りたい憧れもあったりする。でも、そんな環境の中で僕ら世代が取り組んでいることを、先輩たちが見ても面白いなと感じてもらえて、食べてもらったときに『ちゃんとしてるな』って思ってもらいたい、いつもそう考えながらお菓子を作っています」

そんな田代シェフのこだわりのひとつが素材選び。また、加工品は使わないことも心に決めていることのひとつだ。

田代シェフ:

「特にそれをうたってはいませんが、うちは安全で安心な素材を選んで使っていて、フルーツピューレもアーモンドプードルも含めてほとんどが手作り。フランス菓子の歴史を辿ると、材料はすべてが手作りなんです。だから、この部分の伝統的な良さを、他のお店よりもしっかりやりたいなと。

上の世代の方たちが食材メーカーと協力して、フランスにあって日本にないものをいろいろ作ってくださったおかげで、僕がパティシエになったときには質のいい既製品がありました。ただ、このプロセスを経験していない僕としては、ゼロから物を作る感覚にも重点を置きたいなと。

なぜ、お菓子を作っているかという根本も振り返りながら、その上で新しいもの、いいと思うものを作れるようになったら、お菓子はもっと面白くなるんじゃないかなって思います」

- Interview vol.2 へ続く -

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