2014年7月に独立し、「MERCI BAKE」をオープンした田代シェフ。“新しい表現をする街のケーキ屋”を作るために、自分がケーキ屋としてやりたいこと、やりたくないことは何かをあらためて考えたという。冷凍はしない、廃棄はしない、長時間労働もしない。それを実現する唯一の方法として、まずは閉店までずっとお菓子を作り続けるのをやめた。
田代シェフ:
「商品が余ったら廃棄する、日持ちするものは翌日にも出すというケーキ屋が多いと思います。でも、僕はそれに後ろめたさがあって、自分の店ではどちらも絶対にしたくありませんでした。だから、パン屋さんのように毎朝お菓子を焼き、その日に売り切るケーキ屋にしたんです。
そうすると、どうしても営業時間中に売り切れてしまう。お客さんがわざわざ来てくださったのに商品がなくてがっかりされる顔を見ると、本当に申し訳なくて切なくなります。でも、そこまでして来てくれる人のためにも、前日のケーキは出したくないんです。予約も取り置きもできなくて不便だけど、食べたら絶対おいしいケーキ屋さんでいたいと思っています」
加工品を使わないという製法のこだわりも、オープン当初から変わらない。商品開発では、流行りを意識したことはなく、お菓子の食べ方やお店のあり方を強くイメージしているという。
田代シェフ:
「フランス菓子が好きで、見た目はどうあれフランス菓子がベースにあります。だから、フランス菓子の根本的な作り方をして、ベーシックなレシピを伝えることも最初から決めていました。僕のお菓子は、ナチュラルで優しいイメージに思われることも多いんですけど、甘いものは甘い。甘くするには意味がありますし、体に良くないのは古いものを食べるから。だから、いかにいい状態で提供できるかが大切で、お菓子だけどその場ですぐに食べた方がおいしい物を作っています。
質のいい砂糖を使い、小麦粉は国産、フルーツや野菜もほとんどが自然栽培やオーガニックのもの。でもそれは、オーガニックだからいいわけじゃなくて、食べておいしいという基準で選んだらオーガニックだった、という順番なんです」
最初は理想で始まって、やっているうちにやりたいことがもっと増え、それに日々取り組んでいるという田代シェフ。働きやすい環境作りにも力を注いでいて、仕事は時間内に終えるのを基本とし、長時間労働をしないシステムを構築。ちなみに、スタッフは全員が社員だそうだ。
田代シェフ:
「スタッフそれぞれが、毎日頑張ればぎりぎり終わりくらいの仕事量を持っています。定時で帰るために、勤務時間中は集中して働き、休憩もきちんととるのが基本ルール。疲れた状態でお菓子を作って良かったためしがありませんし、大きなミスをしたり、そのミスが尾を引いたりするから、だったら早く帰った方がいい。
もっと働いていろんなもの作りたいという気持ちもありますが、時間の中でそれができないなら意味ない。だから、みんなでもっと技術を上げるしかないなって思っています」
加工品を使わず、長時間労働もしない。一体どんなやり方でそれを両立しているのだろうか?
田代シェフ:
「余計なことやらなければ実現できます。たとえば、売れ残った商品を翌日販売するためにしまうのって実はすごく時間がかかるのですが、朝焼いてその日に売り切ればそれをしなくて済む。保存をしなくてよければ簡易包装になります。
夏はお店を1カ月お休みにしているのですが、暑い時期にお店を開けていてもお客さんが少なくなりますし、むしろ長期で休むとなるとその前後にたくさんお客さんがいらっしゃるので、休まなかった年と売上はあまり変わらなかったりするんです。儲かっているから休むんじゃなくて、残りの11カ月で頑張って、休める工夫をする。スタッフには夏休みには旅に出るようにすすめていて、僕は今年の夏は北海道でファームトリップのようなことをして過ごしました」
田代シェフは現在33歳。パティシエになったときには日本に本格的なフランス菓子があった同世代のパティシエたちは、修業時代にどっぷりとフランス菓子に浸かったうえで、表現のみを変えて、取り組んでいる人が多いと話す。
田代シェフ:
「誰もが楽をしたいわけではないし、端折ってもいない。表現方法の違いだけで、やっていることは上の世代の方たちと同じだと思っています。独立して4年経ち、何をするべきで何をしなくていいかもだんだんわかってきた。これからも新しいお菓子を作っていきたいし、材料は常に見直してよりいいものを探したい。お菓子屋としてやるべきことはまだたくさんありますし、どうしたらもっと自分のお菓子をいいと思ってもらえるかをしっかり考えて、想いがちゃんと伝わるような環境を整えていきたいですね」
最後に、パティシエとして、もっともうれしい瞬間、やりがいを感じるときことは何かを聞いてみた。
田代シェフ:
「おいしいって言ってもらったときはもちろんすごくうれしいのですが、ケーキを作っているときに一番喜びを感じます。びっくりするほどおいしいものができたときには、テンションが上がる(笑)。たとえば、同じレシピでもピューレを作るところからやってみると、格段においしくなったりしますから。そうやって、何かをちょっと変えたらすごくおいしくなったときは、うれしいですね。
それから、スタッフたちが自分で考えてやったことで、僕が焼いたときよりもおいしくなったりするのもすごくうれしい。僕が何もしていないのにもっとケーキがおいしくなるって、すごいことじゃないですか?」
cotta徹底取材!プロの仕事 田代翔太シェフ インタビューvol.3
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