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Interview vol.1
師匠から学んだ精神が息づく、
オーブン・ミトンのお菓子

きびきびと動く手元で泡立てられ、混ぜ込まれていくパウンドケーキ生地。

小嶋さん:

バターがちょっと硬いですね。この状態でいくらがんばっても、泡立たないので、温めた布巾を底に敷きます。
粉の中をゴムべらが〝通過〟するだけでは、混ざりません。持ち上げて、すくって、落とす。この動きが大事。



作業するシェフ、小嶋ルミさんの口からは、手さばきの細かなポイントや、生地の見極めを説明する言葉が次々と湧き出る。長年、人々を魅了してきたおいしい生地の源は、上質の素材を、こうして丁寧に扱う工程一つ一つにこそあるのだろう。奇をてらわない素朴な仕立てでありながら、ひとたび口にしたときの香り、肌理、コク、口溶けなどの印象が鮮やかで、驚きがある……それが、小嶋さんが営む「オーブン・ミトン」のお菓子だ。

「オーブン・ミトン」の開店は1987年。会社勤めをしながら夜間の製菓学校で学び、さらに短い期間ではあったが数店舗で現場修行を積み、小さな小さな店をオープンした。

小嶋さん:

その当時、お菓子屋さんになるには、現場で働くことが必要でした。働いていない人はやるべきではない、というくらいの時代でした。私自身も、今でもそう思っていますよ。趣味の延長では、高い到達点には行けないと思っています。



小嶋さんの中に、現在にまで生き続ける精神が培われたのは、横溝春雄氏(現「リリエンベルグ」オーナーシェフ)に師事した時期だという。

小嶋さん:

いわゆる最先端をいくフランス菓子はまだ少ない時代でした。しかしよい素材を使ってつくるとか、添加物を使わないとか、冷凍をしないとか・・・〝素(そ)〟に近いお菓子づくりをされていたのが横溝シェフでした。当時は、それを美味しさの原点と気付けませんでした。しかし今になって考えてみると一番大事なことを横溝シェフから学んでいたんだと、心から感謝しています。何といっても感動するおいしいものは自然の素材からしか生まれませんから・・・。

プロのお菓子作りの現場の厳しさ、量産する技術など、後々独立してからの糧となる貴重な学び、それは製造現場で培われると小嶋さんは話す。

志賀さん:

女性でも少なくとも3年以上の経験を現場で積んで欲しいと思います。
自分でこれを真似たい、この味を目指したいと思う店で修行をするのが理想ですが、なかなかそんな店も少ないのが現状です。見た目の華やかさに惹かれ、本質の部分、食べて本当においしいと思う気持ちを見失わないようにして欲しいです。例えば原材料に関していうと、お菓子の世界には加工品、二次製品がとても多いんです。
先ほど、パウンドケーキに入れるレモンの皮をすりおろしたでしょう?
あのようなものですら、冷凍品が多用されます。加工品を使えば、工程を省けるわけですから、人件費は下がり、商品の仕上がりは安定するのかもしれませんけれど、私は、それは絶対に違うと思っている。
加工品には少なからず何かしらの添加物は使われており、フレッシュなおいしさはありません。やっぱり本物の味ではないんです。
本物の味を知らないでお菓子屋さんに入り、本物を使わずに修行し、それをそのまま引き継いでいくひとも多いのではないでしょうか。

小嶋さん:

利便性を取りがちな、実用性優先菓子作りの現場は、全てが正しいわけではありません。 何が正しいかしっかり考えて因習に流されないように。
私は、パティシエを目指す特に女性たちには、そういうところをしっかり考えてほしいと思っています。将来子供を産み育てて行くお母さんになるわけですから、しっかりと本物を見分けられるパティシエになって欲しいんです。



小嶋さんの本物へのこだわりと、若いパティシエへの期待をひしひしと感じた。

- Interview vol.2 へ続く -

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