オーブン・ミトン開店以来26年、お菓子の質をたゆまず追究し、パティシエとして、お菓子講師として第一線で活躍し続けてきた小嶋さん。この間、日本の菓子界は、本場フランス菓子の流れも強く受け、変貌をとげてきた。
加えて、アマチュアの愛好家にとってのお菓子づくりの環境にも、少なからず変化があったといえるだろう。日本にいながらにして、お菓子界の最先端の情報を仕入れる機会や、その味の一端に触れる機会は確実に増えている。プロ、アマチュアを問わず、レシピや情報もさまざまなものがあふれている。
小嶋さん:
これまでオーブン・ミトンが歩み続けてこられたわけは、自然なおいしさ、純粋で上質な素材から生まれる感動を日々追究し続けてきたこと、それを求めてたくさんのお客さまがいらしてくれたこと、また、その味をつくってみたいと年々増える生徒さんがいらしてくれたことです。
小嶋さんにしかできないお菓子づくり、一度食べたら、ほかの店と違うと感じる魅力のある味があったからこそだ。
レシピ本を通してオーブン・ミトンのお菓子は多くの人々に親しまれるようにもなり、小嶋さんもそれに答えるよう、工房での教室、地方での講習などで教える機会を増やし、講習方法も、ゴムベラでの素振り宿題を出すなど独自のアイデアをとっている。
小嶋さん:
10年前程までは、オーブン・ミトンのお菓子を食べて、これをつくりたいという人が入門されることが多かったんです。私はその思いに報いるために、プロの業を家庭でも再現できるよう、わかりやすくお伝えしてきました。
ところが近年では、実際にお店のお菓子は食べたことは無いけれど、私の本を見て自分がつくったお菓子に感動し、もっと上手に、もっと知りたいと思い、教室にいらっしゃる方がとても多くなりました。これも時代の流れなんですね。
この本でお菓子づくりを初めてやってみましたという方、教室に来て初めてジェノワーズを焼きましたという方もいらっしゃいます。でも皆さん一生懸命に何回もつくり込み、混ぜ方もできるようになり、すぐに初心者から上級者になられます。さらに精進し、カフェやコーヒー店を開店された方もいます。
これまでは、よりおいしさを求める人々にお菓子の技術を伝えてきた小嶋さんだが、最近は初心者の方々に是非オーブン・ミトンのお菓子作りにチャレンジしてほしいと思うようになったそうだ。
小嶋さん:
初めてお菓子作りにチャレンジする人々は、つくりやすく簡単で、失敗しにくいレシピのお菓子をつくりがち。しかし、それらのレシピは味にはあまり重きを置いていない場合が多い気がします。材料も、すぐ手に入る安価なもの、マーガリンやコンパウンドバター、植物性生クリームなどの代用品でつくる傾向にあります。また、ミックス粉も多くの種類が売られ、それに飛びついてしまいます。これには添加物も多く含まれ、不自然な味です。しかし、世の中はそんなレシピや材料がとても良いもののように売られ、幅を広げていっているように感じます。
初心者だからこそ、小麦粉から、卵から、バターもできればちゃんと発酵バターを使い、素(そ)の材料からのお菓子づくりを行なってほしいと思います。それが手づくりのお菓子の本質で、良さだと思うのは私だけでしょうか。
材料とレシピがきちんとしていれば、少々失敗しても、しみじみおいしいもの。
ホットケーキもカップケーキも粉から計って、ミックス粉などは使わずつくってほしい。スポンジケーキも、混ぜ方を守り何回かつくると、ケーキ屋さんのものより、リッチで心温まる味のものがつくれます
現在、インターネットの普及もあり、入手できる材料の幅が格段に広がった。小麦粉一つ、砂糖一つとっても、消費者の商品選択肢は、26年前とは比べようのないほどに恵まれている。
小嶋さん:
消費者は、何をどう選び取ればよいのかを自分で判断するのは難しくなってきているのではないでしょうか。知らず知らず、材料屋さんや提供する側の思惑にのせられて購入している場合が多いと思います。勧められたらそのまま受け入れてしまいますものね。でも、お菓子業界に長くいることで、本当によいものとそうでないもの、本当に必要なものとそうでないものはわかります。これからは、それもお菓子づくりを始めようとしているひとたちを中心にお伝えしていければと思います。
お菓子づくりのノウハウを伝え、正直なプロを育てること。手づくりを楽しむ人々に本物を知ってもらうこと。小さなことですが一生かけてやっていこうと思います。そして、できれば年をとっても、少ない量でもお菓子はつくり続け、『小嶋さんのお菓子だからおいしいわよ』といって来てくださる方たちを裏切らないお菓子づくりをずっと大切にしていきたい。
と語る小嶋さんだった。
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