島田進シェフのお菓子は、卓越した洋酒使いも特長のひとつ。パティシエ・シマで一番人気のタルト『タルト・フレーズ』の味を左右しているのも、サクランボのブランデーのキルシュだと話す。フランスから帰国後、シェフ・パティシエを務めた銀座の「マキシム・ド・パリ」の大ヒットケーキ『ナポレオンパイ』も、当時では珍しかったフルーツの味を生かし、キルシュを利かせたいちごのミルフィーユだ。
「シンプルな『タルト・フレーズ』も、リキュールを少し入れるだけでグッと美味しくなります。僕が帰国した頃の日本は、フランス的なテイストが好まれた時代。日本で入手できる洋酒はすごく少なかったので、買えないものは自分で個人輸入していました。
洋酒は値段も高く、お菓子に使うのは原価的に見てもとても贅沢なこと。でも、お酒を入れることで、従来の美味しさの基準を超えるインパクトを与えることができました。当時のお菓子を食べたご年配の方たちの舌にはその味が染みついているので、今でもお酒の入ったお菓子を食べると『なつかしい』『美味しい』っていう印象になると思います。
今考えると、当時のお菓子はそれほどすごいものではなかったけれど、そういったスピリッツが入っていた気がしますね」
そんな島田シェフが、とても大切にしているお酒がある。オレンジのリキュール「グランマルニエ」だ。師匠のルコント氏が大好きだったお酒で、島田シェフにとっても思い出深いものだという。