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Interview vol.3
仕事への取り組みも、お菓子の味も、ちょうどいい加減で

念願だったフランスでの経験を経て、菊地シェフ自身にはどんな変化があったのだろうか?

菊地シェフ:

日本のホテルでは、“こうでなければダメ”という厳格なルールがありました。お客さまには常に最良ものを提供しなければいけないという考えを教わって、作るお菓子のサイズなどもきっちり決まっていて、少しのズレも許されませんでした。すごくストイック。それがフランスに行ったら、みんなけっこう適当で(笑)

フランスのハイアット時代、ブティック用に作ったケーキがショーケースの中で倒れていたことがあった。それを直そうとしたところ、同僚のパティシエに「それは俺たちの仕事じゃない」「きれいに仕上げるところまでが俺たちの仕事だ」と言われたそうだ。

菊地シェフ:

それを見たお客さんも『私はその倒れているのをいただくわ。そんなことくらいでイライラしたりしないし』って。そうやってレジ前でずっとおしゃべりしているから、後ろに並んでいる人が待たされて怒っているみたいな、わけのわからない世界で(笑)。おかげで、固定観念が崩れました。

アラン・シャペルさん(注:フランス料理界の「ダヴィンチ」と称されるシェフ)の言葉に『casser la tête(カッセ ラ テットゥ)』というのがあって、“頭をぶち壊して砕け” “固定観念にとらわれるな”っていう意味なんですけど、時には想像していた通りじゃなかったり、レシピを超えるものがあったりする。

あぁ、僕もキツキツに考えすぎていたかなぁって、考え方が大きく変わりましたね。

技術面でも腕を磨いた菊地シェフは、在仏中にフランスの三大コンクール「ガストロノミックアルパジョンコンクール」で優勝。この頃から、自分の作りたいお菓子について、深く考えるようになっていた。

菊地シェフ:

当時、パリのハイアットはミシュランの星をとって、盛り上がっている時期。また、科学的調理法が流行っていて、新しいことばっかりやっていましたね。ユニークなお菓子も生まれて、新鮮で楽しかったけれど、それはみんなが好きなわけじゃないということも感じていました。

斬新なお菓子は一回食べたら満足で、また食べたいって思うものじゃない。自己満足ではなく、人に食べてもらいたい美味しいお菓子というのは、モダンではなくクラシック。

将来お店をやるときにどんなお菓子を作りたいのか、そこで見えてきましたね。

フランスでの勤務を終えて帰国後は、東京・自由が丘の「ガトー・ナチュレール・シュウ」でシェフパティシエを務めながら、営業や人事、企画など、経営に関する業務を習得。

そして開業を前に、フランス菓子のクラシックな感覚に戻したいと、パリのトップパティシエ、セバスチャン・ゴダール氏のもとへ。ゴダール氏は「フォション」のシェフパティシエを務めた後、モダンなお菓子を提供する「デリカバー」をオープン、そのお店をクローズしたのちに、自らの名前を冠した「セバスチャン・ゴダール」を開店。

菊地シェフは、「セバスチャン・ゴダール」がフランスの伝統に徹したお菓子を提供するお店だったことに驚いたという。

菊地シェフ:

セバスチャンとは、僕がハイアットでモダンを追いかけていたころに一緒に仕事をしていて、なぜ突然モダンなことをやめて、クラシックのお店を始めたんだろうって。僕もちょうど迷っていた時期だったので、だったら直接聞きに行こうと。

すると、彼曰く『今、パリではクラシックなものがどこでも買えない。だから僕がそれを再生する。ルネッサンスだ』と。たとえば彼が作るフランスの伝統菓子『ピュイ・ダムール』は、パイ生地とカスタードクリームだけ。すごくシンプル。それがセバスチャンのオリジナリティで、彼にしかできません。

でも僕だったら、バナナなど他にも何か入れたくなる。僕には僕なりのフランス菓子の解釈があるから、同じことはやりません。僕は職人としてもオーナーとしても、お客さまに美味しいと思ってもらえるお菓子を提供したい。

そう考えたとき、作りたいお菓子は伝統と革命が融合された“レトロモダン”なんだと、目指すスタイルが明確になりました。

こうして2012年11月に、満を持して「レザネフォール」を開業。独立して丸5年目が過ぎた今も、常にメディアで動向が注目される人気店になった。そして菊地シェフの念願通り、シェフの味を愛するリピーターは多い。

菊地シェフ:

オープンしてからずっと忙しくて、お店も成長し続けている感じがします。こうなりたいという具体的な目標はありませんが、毎年少しずつでも成長して、数年後には大きく成長できていたらいいですね。

今年の春には、師匠の棟田シェフのお店を一軒引き継いで、東京・中野で新しい『レザネフォール』を始めることになっています。恵比寿の店舗の3倍もの広さなのですが、師匠に任されたらやるしかない(笑)!

表現は変わるかもしれませんが、伝統と革新というコンセプトは新しいお店も同じ。そこにブレはありません。

※中野店は2018年4月にオープンしています。

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