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Interview vol.3
長いキャリアで培った、
お菓子のテクニックとプロデュース力

神田シェフは気遣いの人。サービス精神が旺盛で、誰に対しても誠意を持って接する。お菓子作りへの心構えも同じで、視覚的に楽しませながら、実直に組み立てたレシピで、記憶に残るおいしさを生み出している。

神田シェフ:

「仕事で逃げたり言い訳したりできないし、結果を出して初めて人は判断してくれる。自分がやらないと人には伝わらないし、評価もしてもらえず、結果につながらないことをこの世界に入って学びました。

最初の数年は、競争心もあるし、後輩が入ってくれば先輩としての自負もあって、自分の立ち位置を守るために何枚も鎧を着ていました。でも、その距離感に疲れちゃって、ありのままの自分でいようと。そして、自分の考えを押し付けるのではなく、“こうされたら嬉しい”と思うことを、自分視点でやることにしたんです」

自分が心地良くなければ、人に優しくできない。そして、自分が満たされていれば余裕が生まれ、新しいことに挑戦したり前向きに取り組んだりする意欲にもつながると神田シェフはいう。

神田シェフ:

「環境に慣れてくると初心を忘れがちですが、始めたときのピュアな気持ち、謙虚な気持ち、感謝の気持ちがあれば、不満やストレスは出ないのかなと。洗い場の話でいうと、『なんで自分が洗わなきゃいけないんだよ』って思うのと、『こんなに洗い物が出たってことは、それだけたくさんお菓子が作られて、お客さんに喜んでもらえたんだな』というのとでは違いますからね」

見た目の洗練されたクールなスタイルに反し、優しくて穏やかなオーラを放つ神田シェフは、インタビュー中にたびたびスタッフの名前を口にし、感謝の気持ちを述べていた。周囲の人すべてをリスペクトする想いが伝わってくる。

神田シェフ:

「主任クラスの3名を中心に、スタッフたちがフォローしてくれるおかげで、僕もお店もやっていける。それに対して、みんなが安定していられる環境を作るのがオーナーである僕の役目。昔は辞められたら困ると必要以上に気を使っていましたが、それぞれ個人の事情があるし、辞めるときは辞めちゃう。それがわかった今は、みんなのことを気にかけても、気に病むことはありません。

スタッフたちには、他のお店ではできないことをたくさん経験させてあげたいですし、悩んでいる子にはできる限りのアドバイスをする。それを受けてどうするかは本人次第ですね。パティスリーでのお菓子作りはチームワーク。それをひとりひとりが意識することも大切だと思います。お菓子は複数のパーツでできていますし、いろいろなバリエーションを作ろうと思ったら、多くの人の手や理解が必要。作り手がチームとして成り立たないと、思い描いた表現はできませんから」

神田シェフは、イタリアのスポーツカー「フェラーリ」愛好家としても知られ、男性ファッション誌の取材も受けたことも。デザインやスピードなど車そのものはもちろん、自身の価値観と重なるその世界観に惹かれているという。

神田シェフ:

「他の車メーカーが市販車の宣伝のためにF1レースに出場しているのとは逆に、フェラーリはF1で勝ち続けるために市販車を作っている。『ロートンヌ』はお菓子屋だからお菓子を作って楽しませるのが大前提ですが、個性や色を出していろいろな広がりを見せていきたいですね。物って、長く存在するとだんだん当たり前になって飽きられてしまう。だから、僕自身が時代に沿い、ずっと必要とされるためには、お菓子だけを勉強してればいいわけじゃないのかなって」

そんな神田シェフはこれまで、製菓専門学校をはじめ、フェラーリのサーキットイベント、ファッションショー、障がい者施設など、さまざまな場所でスイーツ教室の講師を務めてきた。お菓子は老若男女が食べるものであり、さまざまな価値観がある中で、自分のお菓子をどう伝えるかはとても重要だと話す。

神田シェフ:

「僕は“洋菓子”っていうワードが、適当な響きがして好きなんです。フランス菓子もウィーン菓子もドイツ菓子も洋菓子ですし、トータルな感じがいい。『ロートンヌ』はフランス菓子のお店ではありませんが、ベースとなる作り方はフランス菓子流。材料にこだわりはありますが、普通はお菓子には使わない料理用の食材なんかを使っておいしいものができたとしたら、迷わずお店に出します。普通はどうあれ、自分が食べておいしいと思うもの、食べてもらいたいものを提供し、自己表現したいですね」

好きなアーティストへのリスペクトで髪の色を変えているというが、これも自己表現のひとつで、モチベーションを保つ方法でもあるらしい。

神田シェフ:

「僕が弟子の立場なら、朝から晩までお菓子一筋のシェフもかっこいいけれど、“こんな仕事をしてお菓子を作る人が、プライベートでは違う一面もあるんだ”という多面的な人に魅力を感じる。この見た目も含めて、そういう理想とする姿があって、自己プロデュースをしています。素だと恥ずかしくて自分のことも喋れないのですが、パティシエの『神田広達(カンダコウタツ)』としてならできるんですよね」

自由な発想で新たな作品を生む神田シェフのお菓子作りには、柔軟とこだわりが同居している。それは製法にしても道具にしても同じだ。

神田シェフ:

「出したい質感や模様が作れるなら、製菓用道具以外のものも使います。バラのお菓子を作るとき、赤い着色料を使ってもあの花びらの色は出せなくて、いろんな色を混ぜることでバラの濃い赤になる。そんな風にルールに縛られず、試行錯誤して完成度を高めていけたらと。物作りでは基本はもちろん大事ですが、そのうえで応用力と想像力を持つことも不可欠。

そして、新しいことを追いかけながら、ベーシックなことを守ることも重要です。ベーシックを守るといっても、古いやり方を変えないという意味ではなく、伝統に新しい技術や表現を取り入れて、時代に合わせてベストな形に変化させることが、真の意味での伝統を引き継ぐことだと思うんです。そうやって伝統を守りながら、自分の人生観を表現できたら理想的ですね」

今回教えていただいた3品のお菓子にも、神田シェフの世界観が詰まっている。いつでも人々を魅了するかわいらしくて美しいお菓子を作るコツと、その美的感覚を養う秘訣を尋ねてみた。

神田シェフ:

「大事にしているのは“初恋”の気持ちですね。物作りにはときめきが大事。自分がいいなと思う人には良く思われたいですが、好きな人を前に女性が自分のファッションを考えるように、『この色使いにしたら素敵かな』とか『こういう風にしたらかわいいかな』とお菓子を作っています。

センスを身につけたいなら、仕事や勉強ばかりじゃなくてたくさん遊ぶこと。遊びは心から楽しめるし、好きなときにできて、飽きたらいつでもやめられる。その中から発見できることがたくさんあるから、遊びを通じていろいろな経験してほしいですね」

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