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Interview vol.3
お菓子の世界に新しい風を

ワーキングホリデーの1年が過ぎ、金井シェフが引き続きフランスで働けるように、と『レストラン ギイ・サヴォア パリ』が労働ビザを申請してくれた。しかし、ビザは簡単には下りなかった。それ以前、日本人不在で成り立っていた三ツ星レストランで、なぜ今日本人が必要なのかを追及されたのだ。

このためビザの申請が再度行われ、結果を待つ間の2010年11月に一度帰国、フランスで苦楽を共にした森大祐シェフがシェフ・パティシエに就任した『パティスリーSAKURA』の立ち上げを手伝うなどして過ごした。

金井シェフ:

「でも、結局ビザは下りませんでした。これも運ですね。そのため、ムッシュ・ギ・サヴォアが気を使って、お友達のムッシュ・アラン・デュカスが手がける日本のビストロ『ブノア』でシェフ・パティシエの枠が空くからと紹介してくれたんです。デュカス・グループでは、基本的には同系列で働いていた人をシェフに立てるのですが、ムッシュ・ギ・サヴォアが推薦してくれたおかげで採用されました。

フランスで学んだレストランの仕事を、日本でシェフとして腕試しをするのもいいな、日本で活動しようって思いました」

2011年にブノアのシェフ・パティシエに就任後、金井シェフは3年間で多くの作品を生んだ。新作はまずレストランのシェフと総料理長に試食してもらい、次にルセットと写真を揃えてフランス本国に提出、そこでOKが出たもののみが提供を許された。

金井シェフ:

「“アラン・デュカスのコンセプトに合ったデセール”という縛りの中で、フランスで学んできたことをどれだけ表現できるか。自分でも面白い挑戦でしたね。

ブノア時代の最後の仕事の一つが『デザート・バイブル』(ナツメ社)という本の出版で、5人のシェフのレシピが約20点ずつ掲載されています。表紙はフランスで覚えたルバーブを使った僕のデザート。もちろんこれも本国にすべてチェックしてもらって、デュカス・グループでの集大成になりました。この本で紹介したお菓子やデザートをあるレストランで真似してくれていると聞き、うれしかったですね。

ここ(UN GRAIN)のスーシェフが『フランスから帰国して、最初に買ったのはこの本なんです』って言ってくれて、当時は彼とはまだ面識がなく、純粋にいい本だと思って選んでもらえたのも感激しました。自分が世に送り出したルセットを誰かに使ってもらえたら、また新しく生み出せばいいわけですし、次へのモチベーションにもなります。」

金井シェフの放つオーラは独特だ。自身の生み出すお菓子のような繊細さやスマートな空気をまといながら、時折、男らしく骨太な日本男児の心が見え隠れする。限りなく謙虚ながら、強い意志と向上心を持ち、義理人情に厚い。UN GRAINの看板商品の一つである『ペティヨン』に使用される高知産ベルガモットとの出合いのエピソードからも、金井シェフらしさが垣間見える。

金井シェフ:

「UN GRAINの立ち上げのころに展示会で出会い、初めて触れる国産のベルガモットの香りに強く惹き込まれました。日本でもベルガモットは数ヶ所で作られていますが、品種が良く質の高いのはその産地のものだけ。これから始めるお店のために、ぜひ僕に使わせてくださいってお願いしたら、生産者さんたちも3年かけてようやく市場に出せるベルガモットができたタイミングで『一緒にがんばっていきましょう』と意気投合してくださいました。

他にもいろいろな柑橘を作っているから高知まで見においでと言ってもらって、そこでさまざまな新しい食材に出合わせてもらいました。今、お店で使っている和紅茶もそこでいただいたご縁です。地方に行けば魅力的な食材がまだまだある、だからこそ日本をもっと知るべきだと感じました。

フランス人は自分の国や住んでいる街のことをよく知っています。人口がどれくらいでどういう文化があるのか、すぐに答えられる。だから僕も、お菓子だけで勝負するんじゃなくて、日本の文化も一緒に打ち出していきたいと考えるようになりました」

そんなシェフの試みの一つが2017年春に行われた臼杵焼とのコラボレーションだ。約200年前に大分県で誕生した幻の焼き物で、長く姿を消していたが近年復活した臼杵焼は、花などの自然にあるものをモチーフにし、天然素材を抽出して作られたもの。この器を使って提供された金井シェフのデザートプレートは訪れた人々を魅了し、舌にも強い記憶を残した。

金井シェフ:

「お菓子の世界の発想だけでは限界があって、ミニャルディーズという小さいケーキの世界観で何が表現できるかを考えたとき、全然関係のない業種の方からヒントを得ることが多くなりました。もっと生産者さんたちとつながって、異業種の人やアーティストの方たちともコミュニケーションをとって、お互いにプラスになるコラボレーションをしていきたいですね。

器も食材ももっと和のテイストを取り入れて、和の素材・和の文化を世界に発信する。アウトプットばかりだと引き出しが空っぽになってしまうので、自分もインプットしていく。僕が経験したことを伝えることで若い子たちも育っていきます。皆さんにお世話になっている分、自分もできることをしたいですし、ご縁をつなげていきたいですね」

長い間お菓子と真剣に、熱く向き合いつつも、いつも俯瞰で物事を見て、さまざまな選択をしてきた金井シェフ。視野を広げ、発想を転換すれば、まだまだお菓子の世界は広がっていく。その道を新たに切り開こうとする金井シェフの姿はとても頼もしかった。最後に、今後の目標を訊ねた。

金井シェフ:

「やりたいことは山ほどあるのですが、今はこのブランド(UN GRAIN)を何が何でも成功させたいです。その先には自分のお店も視野に入れています。だからこそ、いい勢いがついたときに次の世代に引き継ぎたいですし、それくらいのブランド力をつけたいと日々努力しています。

このお店で働けてよかったなっていう卒業生がいっぱい出てきたら、立ち上げのシェフを務めた身としてはとてもうれしいですね」

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